環境微生物学研究室・相内研究室
Environmental Microbiology・Aiuchi Lab
感染症媒介蚊体内での昆虫寄生菌の感染動態
ハマダラカに対する高病原性菌株の分離に成功しましたが、我々の疑問は「昆虫寄生菌がどのようにハマダラカに寄生するのか?」でした。と言うのも、ハマダラカに菌を接種する際、胞子を染み込ませたろ紙の上を歩かせる方法を採っていました。なので、おそらく跗節(脚の先端)に胞子が付着することが予想されましたが、あの細い蚊の脚の内部を通過するのか、グルーミングなどの最中にどこか他の体の箇所に胞子が付着するのか不明でした。また、菌感染後、蚊の体内で昆虫寄生菌がどのような挙動を示すのか、組織病理学的な手法で観察を行いました。
菌接種したハマダラカを解剖し、体の各部位を培地上に載せて菌の叢生を観察したところ、跗節だけではなく口吻の先端からも高い確率で菌が叢生したことから、菌の感染は口吻と跗節の2つの経路から起こることが考えられました。
昆虫寄生菌に感染したハマダラカの体内
また、昆虫寄生菌の感染動態を観察するため、菌感染個体のパラフイン切片を作成し、グロコット染色によって昆虫組織と菌体を染め分けました。写真の青色に見えるのが昆虫組織で、黒く見えるのが菌体です。上の写真は、菌接種後7日目の死個体で、頭部の口吻・複眼・脳、胸部の背縦走筋、腹部の血体腔・腸管内外・卵巣と菌が充満している様子が分かると思います。さらに、菌感染初期の口吻と跗節を観察すると、それぞれの組織の内部で菌糸を伸ばす昆虫寄生菌が観察されたことから、菌の感染は口吻経路と跗節経路の2パターンが存在することが分かりました。また、口吻と跗節それぞれに菌を接種した際には、口吻経路のみで早期の致死効果が見られることから、ハマダラカの防除には口吻への菌接種が重要であることが分かりました。
感染初期の口吻と跗節内で菌糸を伸ばす昆虫寄生菌
さらに、菌感染個体の生存個体(感染しているけどまだ生きている)と死個体を分けて比較したところ、全ての生存個体は脳への菌の侵入が認められず、全ての死個体の脳は菌の侵入を受けていました。このことから、昆虫寄生菌の脳への侵入がハマダラカの早期致死要因の一つであることが明らかになりました。
(これらはIshii et al., Scientific Reports, 2017で報告した研究成果です)
菌感染生存個体と菌感染死個体の頭部の比較