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カルシウム施肥に基づいたアブラムシ行動制御による植物ウイルス伝搬抑制

​ 植物に感染ウイルスは1000種ほどが知られており、それらによる経済被害は全世界で600億ドルに上るとされています。これら植物ウイルスのうち約70%が媒介節足動物(ベクター)によって媒介され、その半数がアブラムシ類によって媒介されます。現在までのところウイルス罹病植物を治療的に保護する技術は確立されていないことから、化学殺虫剤によるベクター防除が行われてきましたが、殺虫剤抵抗性が大きな問題になっています。通常、このような難防除害虫の防除にたいしては、総合的有害生物管理(IPM)のような複合的な手法による防除が有効とされますが、バレイショのような大規模栽培においても可能な手法のオプションは限定されているのが現状です。また、大規模栽培にも対応可能な防除戦略は、安価で簡易的であることが必須となります。そこで、予め植物体を頑健化させることで病害虫の発生を抑制する、プロアクティブな作物保護技術に着目して研究を進めています。

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 カルシウムは、植物の第一の病害虫防除機構である細胞壁の強化、および病害虫の標的となる細胞液を包む細胞膜の安定化、各種ストレス応答のシグナル伝達元素として作用し、植物を生理的・物理的に頑健化します。これまでにバレイショでは、そうか病や軟腐病、塊茎の内部障害を抑制し、低温ストレスや暑熱ストレス、塩ストレスを緩和することが知られており、現在、アメリカ等では一般的な肥料元素となっています。しかし、日本国内では、短期的な生産性や収量性が重視され、窒素・リン酸。カリウムのみの施用が中心です。カルシウムは土壌改良材としての認識が強く、作物への積極的な施用は実施されてこなかった経緯があります。また、これらカルシウム資材の大半が難容性の炭酸カルシウムが主体で、カルシウムがイオン化しないことから植物への加給性は低いものです。そこで、本研究では、従来の化学農薬による対処的な防除とは一線を画し、植物の頑健化に必須な元素を予め処方する、植物に対する予防医療的な手法を用いた防除法の確立を目指しています。特に本課題では、①カルシウムを施肥することで、植物が頑健化し、②植物が頑健化することで、ベクターの行動が変化し、③ベクターの行動が変化することで、植物ウイルスの伝搬を抑制できるかを検証しています。

 これまでに、Electric Penetration Graph (EPG)という昆虫の吸汁行動を解析する装置を使って、アブラムシの吸汁行動を観察してきました。その結果、高カルシウムジャガイモでは、アブラムシの全吸汁行動量が減少し、吸汁困難時間や唾液放出時間の増加、師管吸汁行動量の減少など、吸汁行動に変化が起こることがわかっています。また、アブラムシの嗜好性試験では、カルシウム含量の少ないジャガイモを好み、高カルシウムジャガイモでは、アブラムシの産仔数が減少することも明らかになりました。これらは、カルシウムによって植物が物理的に頑健になり、アブラムシが吸汁しづらい構造に変化したためと考えられます。また、高カルシウム植物の防御反応を強化して、師管吸汁を阻害している可能性も示されました。

 今後は、カルシウム施肥が、ジャガイモのウイルス病に与える影響を調査する予定です。さらに、ジャガイモ(カルシウム)ーアブラムシー植物ウイルスの三者間の相互関係について研究し、カルシウムが植物ウイルスの伝搬効率に与える影響を明らかにしたいと考えています。

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