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四季成りイチゴ栽培における生物防除を基幹としたIPMの実践

 ビニールハウスなど施設栽培では、通年気温が高く安定した環境であるため、しばしば害虫が大発生します。そのような害虫を施設害虫と呼びますが、その多くがすでに様々な化学殺虫剤に対し抵抗性を発達させ、難防除化が進んでいます。このような難防除害虫に効果的なのが、総合的有害生物管理(Integrated Pest Management: IPM)です。IPMを導入するにあたって重要なのは、化学農薬中心の慣行的IPMではなく、生物防除を基幹としたIPMを実践することです。本研究では、これまで化学農薬のみを使用してきたものの、農薬の効果の低下が見られた四季なりイチゴの圃場で、生物防除を基幹としたIPMの導入を実施しました。対象としたのは、試験開始時点で非常に高い密度になっていたナミハダニと、例年夏と秋に大発生するオンシツコナジラミ です。

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 まず、ナミハダニですが、試験開始時にイチゴの複葉1枚あたりナミハダニの成虫が30頭以上と非常に高い密度になっていました。そこで、当圃場のナミハダニに対し効果が認められた選択性の高い(天敵昆虫に影響が少ない)殺虫剤を散布し、翌週にデンプンを主成分とする気門封鎖剤を用いました。天敵昆虫を使用する際は、可能な限り低い害虫密度であることが成功の秘訣です(ゼロ放飼)。今回は、殺虫剤と気門封鎖剤でナミハダニ密度を低下させてから、捕食性天敵のカブリダニ2種を同時放飼しました。その後、7月のナミハダニ密度上昇時に選択性殺虫剤を1回使用しましたが、ナミハダニ密度の上昇に伴ってカブリダニの密度も上昇していることから、これは必要なかったかもしれませんね。12月と1月にもナミハダニ密度が増えますが、すぐにカブリダニがそれを抑えてくれているのが分かると思います。これは、非常に低い密度であるが、カブリダニが定着・繁殖して圃場内にとどまっていることを示しています。本試験では、5回の防除(化学殺虫剤2回)で10ヶ月間ナミハダニの発生を抑制することができました。

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 オンシツコナジラミ ですが、こちらのハウスは夏に新たに設置された圃場で、9月にコナジラミの発生が確認されました。コナジラミ類の場合もゼロ放飼が重要になります。コナジラミの場合、成虫の発生を認識した頃には、膨大な数の卵や幼虫が葉についた状態になり、ゼロ放飼が行えなくなります。なので、最初の侵入を捉えるために粘着トラップを設置したり、葉の卵や幼虫のモニタリングが大事です。本試験でも、成虫密度が低い段階でオンシツツヤコバチ(コナジラミに寄生するハチ)を放飼しているのは、葉上でコナジラミの卵が確認されたからです。その後、2回目のツヤコバチの追加放飼と、局所的に高密度になった箇所にスポットで気門封鎖剤を用いました。試験後半はツヤコバチの定着が確認できたので、あとは粘着トラップに任せることにしました。これにより、6ヶ月間に渡ってオンシツコナジラミ の発生を抑制することができました。

​ このように、生物防除をベースとし、必要に応じて選択性の化学農薬等を使用することで、効果的な防除が行えます。さらに、防除回数を減らし、長期にわたってその効果を維持することも可能です。

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