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日本で主に問題となっているオンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)およびタバココナジラミ(Bemisia tabaci)は、250種以上に寄生し、植物を直接吸汁することで、葉の退色、萎凋、枯死、作物全体の生育不良や生育阻害を引き起こすだけでなく、植物ウイルスの媒介、すす病の繁殖による汚染果の発生・減収など深刻な被害をもたらします。これまでコナジラミの防除は化学殺虫剤を中心に行われてきていましたが、近年の化学殺虫剤に対し著しい抵抗性の発達が報告されており、化学殺虫剤だけでなく物理的防除や生物的防除など様々な防除法を組み合わせる必要があります。Lecanicillium spp.は節足動物に特異的に寄生する昆虫寄生菌の1種で、コナジラミにも寄生することが報告されています。そのためコナジラミの生物防除において微生物防除資材として使用されています。

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これまでは、昆虫寄生菌が宿主に寄生して致死する、直接的な効果の研究が行われてきました。当ラボでは、昆虫寄生菌に感染した昆虫の行動や生殖能力など間接的に影響を与える亜致死効果に焦点を当てて研究を進めています。これまでに、昆虫寄生菌に感染した蚊は、宿主を探索するための目印(二酸化炭素、熱、色など)を認識できなくなることを明らかにしています(昆虫寄生菌による感染症媒介蚊の行動制御 参照)。一方で農業害虫であるコナジラミやアブラムシなどの吸汁性昆虫への昆虫寄生菌の亜致死効果はほとんど報告されていません。そこで当ラボでは、EPG (Electric Penetration Graph)システムを導入し、昆虫寄生菌がコナジラミの吸汁行動に与える影響について解析しました。コナジラミの吸汁行動には、吸汁場所の探索、唾液の放出、師管吸汁、導管吸汁などがあります。金線で繋がれたコナジラミがこれらの行動を行うと、電気回路が繋がりそれぞれの吸汁行動に応じた電位変化の波形が表示されます。その波形を読み取ることでコナジラミのような微小害虫の吸汁行動を読み取ることができます。

解析の結果、昆虫寄生菌に感染したコナジラミは、時間の経過とともに、導管吸汁行動の減少と吸汁困難時間の増加がみられました。また、コナジラミの唾液の放出および師管液の吸汁には影響を与えないことが明らかになりました。導管は主に植物が根から吸った水分や無機塩類が通るため、導管吸汁が阻害されたコナジラミは水分を得ることができなくなります。さらに吸汁困難時間が増加した結果から、昆虫寄生菌に感染したコナジラミが十分な栄養を得られない可能性が示されました。これらのことから、昆虫寄生菌は、感染によりコナジラミの吸汁行動を変えることが明らかとなりました。今後は、これらの行動変化が、植物被害やウイルス伝播に与えるインパクトについて研究を進める予定です。

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